Un chat du bonheur
そんなことを思いながら、もう開く事もないと思っていたダンボールを開けた。

中には、綺麗に畳まれた何枚かのシャツ。

男物のそれは、当然彼女の持ち物ではない。

その中から、フェリクスが着てもおかしくなさそうなモノを何枚か見繕うと、ダイニングで待っている彼の元へ戻った。
レアが戻るまでおとなしく待っていたのか、彼はレアが戻るとニコリと笑った。


「はい、これ。お古で申し訳ないけど、とりあえず着てみて」

「わぁ、ありがとう。洗って返すね」

どこでよ、と聞こうと思ってそれはやめた。
彼は“捨て猫”なのだ。


「少し大きいかも」

「そう…」

レアは小さく言うと、しげしげとフェリクスを見つめた。
綺麗な毛並みのこの“猫”は、どこからやってきて、何故捨てられてしまったのだろう。
そんなことを考えてみる。気にならないわけではない。だが、聞く事は何故か躊躇われるのだ。


「ねぇ。お腹空かない?」

レアが尋ねると、彼はこくりと頷いた。

「…お昼前、か。駅前のカフェにでも行きましょ」

「うん」

嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ると、レアの心がざわざわと鳴る。




 カフェは混んでいた。
昼前なのだから当たり前といえばそうなのだが、忙しそうに動き回る店員を尻目に、レアとフェリクスは日当たりのいいテラス席に腰掛けた。


「…暑い」

フェリクスがぱたぱたと手で顔を仰ぎながら呟いた。
それもそうだ。
夏のこの晴天。暑くないわけはない。

それでも、申し訳程度にテーブルから突き出しているパラソルのお陰で、日陰は出来ている。


「猫は日向ぼっこが好きなんじゃないの?」

「これは暑すぎるよ」

運ばれてきた飲み物を飲みながら、彼はまた微笑んだ。
レアは肩を竦めると、通りを行き交う人々に目を走らせた。



―…幸せそうなひとたち。



他人の幸せを見るのが嫌なわけではなかった。
ただ、心が軋んでいく。
「彼」がこの手を離したあの時から―…世界の色が消えてしまったかの様だ。

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