Un chat du bonheur
「ぱぱー。ふぇりくすがわたしのケーキたべちゃったー」
「え?!これ猫は食べちゃダメなんだよ…」
「えー」
リュックが足元を見ると、口の周りをクリームだらけにしたフェリクスがにゃあと鳴いた。
リュックは苦笑いすると、ダメっと言ってもう一度顔を上げた。
「もう、アンジェルったら…ママのケーキあげるから」
レアが笑いながらキッチンから顔を出す。
アンジェルと呼ばれた少女はぱっと顔を輝かせると、レアが持ってきたケーキの皿を受け取りながら食べ始めた。
アンジェルはすくすくと育ち、可愛らしい少女になっていた。
二人の天使。そういう意味を込めてアンジェルという名前をつけた。
「レアは食べないの?」
「私はリュックから半分貰う」
「そういうことか」
リュックは笑うと、コーヒーに口をつけた。
あの日から変わらず、コーヒーだけはリュックが淹れていた。
少し薄い、だけど優しいその味が、レアはとても好きだった。
「まま!あーん」
アンジェルが小さな手を一生懸命伸ばしてレアの方にフォークを差し出した。
レアは微笑むと、ありがとうと言って一口食べた。
ほんのり甘いそれは、幸せの味がすると思う。
「すっかりアンジェルはおしゃべりが上手になったね」
リュックが眩しそうに目を細める。
ケーキを食べ終わって満足したのか、アンジェルはフェリクスと遊ぶ事で夢中なようだ。
二人でいる時よりも騒がしくなったこの家が、あの頃よりももっと幸せの色に彩られているとレアは思う。
「アンジェルは、きっとあなたに似て可愛い子に育って…そして、かっこいいボーイフレンドを連れて来るわ」
レアが言うと、リュックが困った様に笑った。
「俺はそれ、少し寂しい」
「私も」
くすくすと笑い合うと、アンジェルが不思議そうにこちらを向いた。