Un chat du bonheur

act.2

「フェリクスー！あなた…あなた、信じられない…！洗濯は私自分でするって言ったのに…！」

一人で住むには少し大きいけれど、二人で住むには、少しだけ狭いこのアパートで。
レアの悲鳴にも近い声が響いた。


「ごめんレアー。だって、俺のだけ回すにはちょっと勿体無いっていうか…」

「だから…！私が戻ってきたら回すって何度言えばわかるの？！信じられない…み、見てないわよね？！見てないわよね？！」

悪戯が見つかってしまった“猫”は、楽しそうにニコニコと笑っているだけである。
レアは怒っても無駄だと判断したのか、脱力したかのように床に崩れ落ちた。


「あぁ、もう…いいわよ…下着でもなんでも、洗いたいなら好きにしたらいいわ…。全く…」

「レアー。お腹すいたー」

フェリクスがのんきな声を上げると、レアはがさがさと持っていた袋から食材を取り上げた。

「もー…。先に着替えたいんだけど…」

「うん、待ってる」

レアはもう一度溜息を付くと、部屋の奥へ歩き出した。
着ていたスーツのジャケットを脱ぎながら、クローゼットを開く。


あの夏の日、「彼」に出会った日。
その後、何事もなかったかの様にフェリクスは相変わらずこのアパートに居た。

元々一人暮らしが長かったことと、レア自身が無駄遣いをする質でもないので、二人分の食費はどうにかなる。
ベッドは本当はわけたいのだが、この狭いアパートではそうもいかない。
かといって、引っ越すお金までは少し手が出ない。

有り難い事に、フェリクスがこうして家事を色々とこなしてくれているのもあり、レアが仕事から戻る頃には食事を作る程度だった。


「お待たせ」

部屋着で戻ると、フェリクスが買い物袋の中を覗きこんでいるところだった。
いつもと代わり映えのしない、冷凍の食材。

「レア、料理苦手なの？」

「…そういうわけじゃない、けど」

何故か…「彼」以外に手料理を作る気になれなかった。
一緒に食べた味を思い出してしまいそうで。