Un chat du bonheur
そろそろ秋も近いからか、外は少し肌寒かった。
もう半袖で外を歩くのはやめたほうがいいのかもしれない、なんて考えつつ、レアはフェリクスの隣を歩いていた。


何処へ行きたいわけでもないらしく、フェリクスは楽しそうに街を歩いている。


灰色の街。
レアにとっては、悲しみと痛みの多い街。


まるで、フェリクスにとっては虹色にでも見えている様な。
そんな様子で。


「楽しそうだね」

レアがフェリクスに声を掛けると、フェリクスはにこりと笑った。

「俺は、レアと一緒ならどこでも嬉しい」

「…そう」

レアも微笑むと、辺りを見回した。
見慣れた、つまらない街だと思う。

きっと自分はこの街に死ぬまで住んで、埋もれて枯れていくのだろうと。
そんなことを考えていた。

「…同じだと、思ったのにな」

レアがぽつりと零した言葉。
フェリクスは、悲しげに微笑んだ。

「…ごめんね、レア。無理してついてきてくれた?大丈夫?」

「あ、そうじゃないんだよ…。ただね…」

「うん?」

続きを促す様に、フェリクスが顔を覗き込んでくる。
レアは意を決した様に息を吸い込んだ。

「あのね…同じだと、思ってた。あなたも、この街が灰色に見えているんじゃないのかって」

でも、違った。
彼はこんなにも、眩しい。

「レア…」

「私ね…元々、田舎生まれで。でも、都会で働いてみたくて、ここに来たの。でも、色々…うまくいかなくて。灰色の街も、きらい。痛くて、寂しくて…私…」

言葉にしていくうちに、知らずに涙が伝った。
忘れていた…忘れようとしていた感情が、また心の中でぐちゃぐちゃになっていく感覚。
顔を覆おうとして、レアの手に暖かいフェリクスの手が触れた。

「レア…泣いてもいいんだよ。レア、ごめんね。俺…レアの為に何もしてあげられない」

優しく抱きしめてくれたのは、この街で彼だけだと思っていた。
まるで、壊れ物に触れる様に、あの「彼」よりももっと優しい―…キラキラと輝く“猫”は、レアを抱きしめたまま一緒に泣いてくれた。



二人で泣きながらアパートに帰ると、朝になるまで色々な事を話した。
殆どは、レアのこと。

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