初恋合戦
「ちょっと寄っていくか。来たついでだ。」

見舞いに行こうと言ったのは樫男ではなく、樫次のほうだった。

何も考えていないようでも、兄のことはよく見えるのかもしれない。

樫男はきっと言い出せなかった。複雑な思いに縛られて。

「いやだー!」

病院に入ったとたん、知った声が飛びこんできた。

「大ちゃん、だめよ、体が悪くなっちゃうよ。」看護師さんも必死だが、

「行―くーのー!」患者はもっと必死だった。

「よォ、ボウズ」

とたんにぴたりと動きをとめ――

看護師さんと繋がったままの腕はぷるぷるしているが――

コドモは目を見開いた。

「シオにぃちゃん、ツグにぃちゃん」


樫男(かシオ)と樫次(かしツグ)のことである。

「5歳のボウズがどこに行くって?」

「国会議事堂前」

ヤケではなかった。

ある種の決意をみなぎらせた大に、樫男と樫次はカオを見合わせる。

「俺たち、今からそこへ行くんだぜ。これ届けに」

樫次は和菓子の箱を示した。

さっきからひとことも喋らない樫男に声をかけたのは、別の看護師さんだった。

「いらして下さい。おふたりとも……大ちゃんのことで、ちょっと。」
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