Happy christmas with you
「コート、貸してください。」

「あ、ごめんね。」

「いえ。夏海さんはソファー座ってください。…休んで、ください。」

「ありがとう。…あ、そういえば、お父様とお母様はやっぱりいないのね。」

「え?」

「前に話してたでしょう?お父様とお母様、とても仲良しでクリスマスは二人で出掛けちゃうって。うちもそうだって話もしたし。」

「…そう言われると、確かそんな話もしましたね。」


…どうしよう、嬉しすぎて身体が震える。
だって、本当に会えないと思ってたんだ。諦めていたんだ。夏海さんには、会えないって。


「…風馬?」

「…夏海さん。」


俺は夏海さんのコートをかけてから、夏海さんの座るソファーに腰掛けた。
そしてぎゅっと夏海さんを抱きしめる。


「…どうしたの?」


どこか驚いたような声で夏海さんがそう問い掛ける。無理もない。まだ少し震えているのだから。


「風馬…?」


抱きしめる腕にそっと手をあててくれる夏海さんは、やっぱり俺が敵わないくらいには大人なんだ。…分かってた。


「…子どもっぽくて、嫌になりました、今回。」

「え…?」


柄にもなく弱い声に自分でも情けないと思う。でも仕方がない。会えたことによる安堵と同時に、思い知ったんだ。


「…リードしたいって思ってるんです。でもできてない自分を知りました。」


夏海さんは俺がいなくても多分やっていける。でも、俺はそうじゃない。
リードしたい、夏海さんを安心させてあげたい、甘えさせてあげたいなんてそんなの無理だってことに…嫌でも気付いた。

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