戦国より愛を込めて 【六花の翼・番外編】
落武者が寝かせられているという部屋のふすまを、そっと開ける。
どうやら、まだ眠っているようだ。
しめしめ。どうやって驚かせてやろうか……
私は音を立てないように注意しながら、落武者が寝ている布団に近づいた。
「……おぉ?」
なんと、まぁ。
これが昨日の汚いボロ雑巾?
布団に寝ていたのは、小奇麗な寝顔の若者だった。
「あらあらあら……」
きっとあのあと、家来達が汚れを落とし、怪我の手当てをしたのだろう。
もう臭くはなかったし、その顔の線は、思っていたよりずっと繊細だった。
私は布団の横に膝をつく。
そして、寝ている落武者の顔を見つめた。
おお、こんな近くで若い男を見るのは初めてだ……
家来にも男はいるが、私の周りは女で固められている。
生まれてからその者達と顔を合わせたことは、数度しかない。
「ぐっすり寝ちゃって……」
まだ童子のような寝顔に、私の心のささくれは癒されていった。