戦国より愛を込めて 【六花の翼・番外編】
「!!」
突然のことだった。
がしりと、大きな手が刀の柄をにぎったのだ。
一体いつの間に起きたのか、落武者が方膝をついたまま、こちらを見つめている。
その目は獲物を狙う鷹のように、鋭い輝きを放っていた。
今の今まで、寝ていたのに……
動きが速すぎて見えなかった……
珍しいことに、心臓の鼓動が早くなる。
「これは拙者の刀とお見受けします。
お怪我をなさらぬうちに、放してくださらぬか」
落武者は寝起きとは思えないほどのなめらかさで、私にそう訴えた。
「……別に、盗もうなどとは思っておりませぬ」
私は動揺を隠し、素直に手を離した。
すると落武者は、刀を大切そうに、そっと自分の方へ引き寄せる。
そして自分の右側に置き、畳へ座りなおした。
これは、私を襲うつもりはないという、意思の表れだ。
どうやら、この落武者の頭は、はっきりしているらしい。
そして話し方から察するに、数合わせのために借り出された農民ではないようだった。
「……ここは、いったいどこでしょうか」
落武者は静かに私に聞いた。