戦国より愛を込めて 【六花の翼・番外編】
なんと情けない……
さっき刀をつかんだ時の、鷹のような鋭い目は、どこへやったのかしら?
目の前にいるのは、茶色い犬みたいな男だった。
奥二重の瞳に、まっすぐな眉。
情の深そうな、厚い唇。
全体的に整ってはいるが、簡単に女に頭を下げてしまう腰の低さが、全てを台無しにしている。
実物の若い男なんて、こんなものか。
武家の出とはいえ、大したことないではないか。
絵巻物に出てくるような、勇敢で強い男を期待していたのに……。
なんだかがっかりしてしまった私は、説明なんかどうでも良くなってしまった。
「嘘だと思うのなら、他の者に聞いてみたら良いでしょう。
今、人を呼びます。
髪を結ってさしあげますから、準備ができたらどうぞ、お帰りください」
くるりと博嗣に背を向ける。
ふすまを開けようとした瞬間、背中に声が届いた。
「お、お待ちくだされ」
「……なんでしょうか」
「拙者、もう帰るところがないのです。
家は戦でなくなりました。
下働きでも何でもいたします。
どうか今一時、こちらにおいてはもらえませぬか?」