戦国より愛を込めて 【六花の翼・番外編】
「あ、え、姫様」
「じっとしてなさい」
「はっ……」
まつ毛の間に墨が入っていないか確認する。
そのままの距離で、ついでに顔中を綺麗にしてやると、
手ぬぐいが代わりに真っ黒になった。
「はい、これでいいわ」
「か、かたじけない」
「?何を硬くなっているの?」
きょとんと見上げると、目の前の博嗣の顔が、赤くなっていく。
「な、何でもござりませぬゆえ、ご心配召されるなっ!」
「武家言葉がおかしいわよ?変なひとね。
心配なんかしていないし」
思わず笑ってしまうと、博嗣はすっくと立ち上がった。
「さ、さあ、拙者は姫君たちを探してきます」
「はい、いってらっしゃい」
「では、御免」
博嗣は姫達の名を呼びながら、風のように庭を駆け抜けていった。