戦国より愛を込めて 【六花の翼・番外編】
彼を拾ってから、まだ幾日も経っていない。
しかしすでに、子供達は博嗣に心を開いていた。
少し情けない男だが、優しいところは評価してやってもいいだろう。
そう。
彼は、依頼に来る武将達のように、威張りくさったところがない。
むしろ風のように、存在感がないようでいて、
疲れたときに、その優しさをさりげなく感じさせるような。
博嗣はそんな男だった。
「姫様!」
「どうしたの?」
鬼のはずの博嗣は、すぐに戻ってきてしまった。
彼は私の目の前にやってくると、そっと後に隠していた右手を差し出した。
「差し上げます」
その手にあったのは、名もない野の花だった。
小さな小さな、紫色の。
まるで、この前の不思議な夢で見た、美しい青年の瞳のような紫。
私はそっと手をのばし、彼がつまんだ茎を受け取った。
そのとき、ほんの少しだけ。
指どうしが、触れ合った。
「………あ、」
「では!」
博嗣は私の「ありがとう」も聞かず、今度は矢のように走り去ってしまった。
私の胸の中に、少しの温かさだけを残して。