戦国より愛を込めて 【六花の翼・番外編】
そうして、穏やかな日々をすごしていたある日のこと……。
音羽家の門が、乱暴に叩かれた。
「夢見姫はおられるか!」
派手な朱色の具足を身につけたその武士は、家来達の制止も聞かず、
依頼人と話をしている途中の大広間に、一人でずかずかとあがりこんできた。
「何なのですか、あなたは。
今、この方と話をしているのです。
用件なら順番に聞きましょう」
「あいにくと、わしには時間がない。
のうそなた、この場を譲ってはくれぬか」
そう言うと武士は、すらりと刀を抜き、依頼人の翁につきつけた。
ただ孫の病気を案じてきただけの貧しい翁は、
悲鳴を上げながら、その場を下がっていく。
「なりませぬ!!
この屋敷で殺生など、私が許さぬ!!」
突然来て、この無体は一体なんなのだ。
頭にきた私は、武士に向かって念じた。
(吹き飛べ!!)
すると武士が深くかぶっていた兜が、天井に付くくらい舞い上がる。
その素顔は、言葉の調子よりもずいぶん若く感じた。
すっきりとした一重まぶたの顔に、ひげを蓄えている。
博嗣とは違い、ちゃんと前髪を落とし、髷を結ったその男は、
見るからに身分の高い武士であると思われた。