戦国より愛を込めて 【六花の翼・番外編】
しかしいくら身分が高かろうが、知ったことではない。
「これ以上傍若無人な振る舞いをするなら、あの兜であなたの頭蓋骨をへこませますよ。
早く刀をおさめなさい」
「ほう……」
驚いたような顔をした武士は、意外にあっさりと刀をしまった。
「翁、案ずるでない。
孫の病気はいずれ良くなるであろう」
「へ、へぇ」
「ここから北へ行ったところ、ここへ行きなさい。
腕の良い医者がいる。
その者に診せれば、孫は良くなる」
私は無礼な武士を思い切り無視し、翁にだけ話しかけた。
そうして、早くこの場から去らせることにしよう。
先に薫に、翁に地図と医者に見せる金を与えるように言い含めておいて良かった。
薫は抜けているが、そういうことはちゃんとしてくれる。
そうして、家人たちのハラハラした視線の中翁を無事に帰し、
私は武士に向き直った。
「あなたは、どこのどなたですか」
落ちろ、と念じると、兜は武士の足元に転がる。
彼はそれを拾い、私の目前にずかずかと歩み寄った。
その顔には薄く笑みが浮かんでいる。