戦国より愛を込めて 【六花の翼・番外編】
「まず無礼をお詫びしよう。
まさか夢見姫が、こんなに勇気のあるお方だとは思わなんだ。
わしは東雲(しののめ)の領主、豊橋右京(とよはし・うきょう)と申す」
「東雲の……」
東雲といえば、今まさにこの近くで戦をやっている国だ。
隣の小国の西条(さいじょう)を相手に、優勢に戦っている。
その領主が、一体何の用だろう。
「今日は夢見姫に聞きたいことがあって参った。
ある人物を探して欲しいのだ」
豊橋は、その場にどかりと座り込んだ。
どうやら話を聞くまでは、帰ってもらえそうにない。
「その人物とは?」
「西条の国の剣術指南役・鳴海義貞(なるみ・よしさだ)」
「鳴海義貞……」
聞いたこともない。
しかも何故、剣術指南役など探さねばならないのか。
疑問が顔に出ていたのか、豊橋は勝手に説明しだした。
「身分はさほど高くありません。
しかし、かの者は名刀『市道(いちどう)』と脇差の二刀流を操り、
鬼神のごとき速さで人を斬る。
鳴海さえおらねば、勝利はとっくに我々のものになっていただろう」
「……その者の行方が知れぬなら、あなたたちにとって都合が良いではありませぬか。
わざわざ探さなくとも……」
「そうはいかぬのだ」
豊橋はばさりと、私の言葉を途中で斬り捨てた。