戦国より愛を込めて 【六花の翼・番外編】
この前見たのと同じ、不思議な衣服を身につけていた彼は、
その細長い指で、いとおしそうに彼女の長い髪をなでた。
何度も、何度も。
そして……
そっと、眠る彼女の唇に、彼の唇が触れた。
それは、ほんの一瞬。
彼女の呼吸を乱す前に、彼はゆっくりと顔を離す。
『……元気でな……』
彼はどこかクセのある声でそうつぶやくと、ぐ、と唇を噛んだ。
彼女に対する、たくさんの感情を飲み込むように。
涙を、こらえるように。
そして、彼は立ち上がる。
す、と開けたふすまの向こうの空は、紫色だった。
彼の瞳の色と同じ。
夜明けが、近づいている……。
彼もその空を見上げた。
そして、一度だけこちらを……いや、少女の方を振り返った。
笑顔のような、泣き顔のような。
何とも言えない表情で、彼は彼女に別れを告げた。
『……ありがとう、まりあ』
その白い頬を……
一筋の涙が、通っていった。