戦国より愛を込めて 【六花の翼・番外編】
博嗣は刀を右に置き、私の目の前に座った。
どく、と心臓が小躍りする。
ああ、調子が狂う。
相手はあの博嗣だというのに。
「姫様、拙者は決して、姫様の力を得るのが目的で、
嘘を申したのではありませぬ」
「……そうなの?」
「そうです。
もしそうなら、無理にでも領主様の元へ連れて行ったでしょう」
そうだろうな。
あれほどの腕を持っていれば、私をさらう機会はいくらでもあったはず。
「拙者は本当に、あそこで野垂れ死にかけていたのです」
「あなたみたいに強い人が、なんで?」
「あはは、強いですかね。
あなた様の方が、よっぽど強いと思いますよ」
博嗣は照れたように首の後をかく。
そして、静かにつぶやいた。
「拙者は、逃げたのです」