不細工なあたし
そう言うと、村瀬くんはくるりとあたしに背を向け、来た道を戻るようにして歩き出した。
……バス、乗るんじゃないの?
「村瀬くん、どこ行くの?」
てっきり一緒にバスを待つのかと思っていたから、あたしは彼の後ろ姿にそう言葉を投げかけた。
「どこって、帰るんだけど…。なに、もっと一緒にいたいの?」
「そ、そうじゃなくて、村瀬くんもバスでしょ?」
さっきそう言ってたよね?
すると村瀬くんは悪戯っぽく笑った。
「……それ、嘘。城崎さんと話す口実が欲しかっただけだから。…ほら、バス来たよ。気を付けて帰ってね」
にっこり笑った村瀬くんに、あたしはズキュンと胸が震えた。
……なんて単純なあたしの心臓。
「ほら、バス。行っちゃうよ」
その言葉にハッとして、あたしは急いでバスに乗り込んだ。
もう夜遅いこともあって、バスの中はがらんとしていた。
席に座って窓の外を見る。
音を立ててバスの扉が閉まり、ゆっくりと車体が動き出した。
ひら、と一度振ってくれた村瀬くんの手が。
穏やかに微笑んで窓ガラス越しにあたしを見る瞳が。
……なんだかとても、嬉しくて。
あたしは窓に映った自分の顔がほころんでいたことに、かあっ、と顔が熱くなった。