matricaria
家に帰ると、まだ誰も帰ってきていなかった。

自分の部屋に入り、床にカバンを置いて座り込む。

呆然とした気持ちだった。

あまりにするすると理解して、頭が空っぽな気分。

――もしかしたら、水香ちゃんが女の子に恋してる、ということに便乗してそう思い込んでしまっただけなんじゃないか。

そんなふうに、思い込みをしている可能性も色々考えたりした。



・・・・・・でもだめだった。

波ちゃんが好き。

そう思ったら苦しいくらい切なくなった。



無意識に気づかないようにしていたのかな。

水香ちゃんが波ちゃんのことを好きなのに、友達の好きな人に恋をするなんて最低だと思う。

でも、何もかも初めてだったんだ。

中学生の時は誰かを「好きかも」と思っても、遠くから眺めているだけでよかった。

でも波ちゃんに会って、惹かれて、憧れて。

波ちゃんみたいになりたいと思った。

仲良くなりたいと強く思った。

水香ちゃんを抱きしめた時、息を呑むくらい格好いいと思った。

胸の奥が、息ができなくなりそうなくらい痛くなった。

これが、嫉妬なんだと思う。

嫉妬をした自分も、友達の好きな人を好きになった自分も、醜くて最低なのに。

もっと最低なことに、わたしは初めて心から人に恋をしたことが、嬉しかったの。

相手が女の子でも関係なかった。

ひとりの人として好きになった。

もっと知りたいと思った。




でも罪悪感は捨てられない。

だからこの想いは誰にも秘密。

采音にも、言っちゃいけないと思う。

波ちゃんがわたしの気持ちを知ったら、気持ち悪いって思うかもしれない。

今まで友達だと思ってたのにって、ショックを受けるかもしれない。

心を誤魔化すことはもうできないけど、波ちゃんとは、友達として接することにした。
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