短志緒
本当に酷い二人だとは思う。
自分たちが素直になれなかったばっかりに、散々他の人間を巻き込んできた。
特に付き合いたての彼氏に結婚するから別れてほしいと言われる彼女には同情する。
私は電話で彼女に泣き付かれている健吾を見ながら、未来の私たちのあり方に思いを馳せた。
「梨香」
後味の悪い電話を切った健吾が携帯を放り投げて私に巻き付く。
彼の顎髭が肩に触れたら始まりの合図。
空気と動きだけで思考を読み取れるのに、どうして互いに気持ちだけは見抜けなかったのか。
今となっては不思議で仕方ない。
「健吾」
「ん?」
「あんたって、すっごくイイ男だね」
「今さら気付いたの?」
「ううん。言ったことなかったから、言ってみたくなっただけ」
これからは、きっと素直になれる。
今まで口に出せなかったことも言える。
今まで聞けなかった言葉も聞くことができる。
遠回りしてきた10年間は、これからの60年を共に生きていくためのステップだったのかもしれない。