短志緒
帰ろうだなんて、微塵も思っていないくせに。
「えー。もう帰っちゃうの?」
俺がこう言うのを待っているのだ。
「嫌なの?」
「やだ。泊まってけばいいじゃん」
だから俺は、ちゃんと彼女が望むように誘導する。
「しょうがないな。じゃあ泊まってく」
マンガを元の場所へ戻して、俺のいるベッドへと潜り込む。
細くて頼りない身体。
彼女はこの中にたくさんの見えない傷を抱えて生きている。
その傷のうちのいくつかは、俺がつけたものだ。
大きな大きな傷だろう。
小さくて細かった目をパッチリさせるために付けた傷なんて、
取るに足りないくらい。