短志緒
倉田真奈美という女は昔から、頭は悪いが侮れないやつだった。
勉強についてはからきしダメであるため、一見教養のないバカ女。
しかし彼女にはそれ以外の幅広い分野において、抜群のセンスを発揮する。
分かりやすいところから挙げるとすれば、運動神経の良さ、ファッションセンスの良さ、人当たりの良さ、運の良さ(男運を除く)。
それから絵も上手いし、歌も上手い。
手先も器用だ。
そんな彼女に勝てる部分が知力と男なりの体力だけだった俺、大川瑛士は、中学の頃から、彼女をバカだアホだとからかうことでしかコミュニケーションを取れなかった。
「お前、リストラも知らねーの?」
「バカにしないでよ! 動物でしょ?」
「ちげーよバーカ。真奈美みたいなやつがリストラされんだよ」
「はぁ? ワケわかんないし! わかるように説明してよ」
「やだね。一生知らないままでいろ」
「ケチ! モヤシ! しね!」
こんな俺たちのやり取りを、周りのやつらは夫婦漫才だといって笑っていた。
楽しかった。
俺は真奈美が大好きだった。
しかし彼女は、俺の年子の兄、秀士に片想いをしていたため、俺の恋は成就することなく中学を卒業。
12年後に再会し、色々良いことや悪いことを経て、恋人として付き合うことになったのだが……。
正直なところ、俺はこの関係に疑問を抱いている。