短志緒
製薬会社のMR職から調剤薬局の局長へと転職して以来、俺はわりと自分の時間が取れるようになった。
以前は午前様になることなど日常茶飯事だったが、最近では夜7時半頃には帰宅できることが多い。
前職の頃は恋人と待ち合わせて食事デートをするのは難しかったが、今なら無理なく楽しむことができる。
ましてやあいつには、合鍵まで渡してある。
いつでも俺の自宅に来て良いという、究極のオープンハート状態。
彼女が仕事終わりにうち来て、そのまま夜を共に過ごすことだってできるのだ。
男ながら、そういう穏やかなラブライフに憧れていたのもあって、転職し同業他社に勤め始めた真奈美との恋愛に期待していた。
しかし、だ。
「明日も朝から仕事だし、今日は帰る」
「会うなら休みの前の日か、休みの日がいい」
……なんか、思ってたのと違う。
付き合う前はかなりの無理を言っても来てくれたのに。
転職して新しい仕事を覚えるのが大変なのはわかる。
職場も真奈美の家からは少し遠いから、通勤に時間がかかることも知っている。
でも、それにしたって、だ。
俺に会いたいっていう気持ち、あんのかよ。