短志緒
俺が彼女にプロポーズをしたのは、
別に彼女の作る飯が美味いからとか
不健康な俺を気遣って色々世話を焼いてくれるからとか
そういう家庭的な面に一生甘えて生きたいと思ったのが理由ではない。
確かに彼女の飯は美味いし世話を焼いてくれるが、
俺は女の手を借りて生きていかねばならないほどヤワに出来てはいない。
ましてや彼女の有栖川奈々子(通称アリス)という名前と
俺の宇佐木啓介(通称ウサギ)という名前に
本気で運命を感じたからというわけでもない。
確かに何か因縁めいたものは感じるけれど、
彼女が有栖川という苗字でなくとも俺は彼女を選んでいただろうと思う。
じゃあ、なぜ彼女を生涯の伴侶にしようと思ったのか。
実は俺自身、確固たる理由を持っているわけではない。
だけどいつも何となく不機嫌で愛想の悪い彼女は、
なぜかとてもいとおしい。