短志緒
昨年の春だったか、彼女の親父が俺たちの住む町にやって来た。
当然俺も挨拶をする。
親父はいつものように無愛想に対応した。
「お父さん、お時間があれば僕の店に来ませんか。奈々子さんと一緒で構いませんし」
俺が誘ってみると、親父はやっぱり微笑むこともせず
「時間があったらな」
と気のない返事をした。
その夜、親父は一人で俺が二番目に出した店に来た。
彼女は来なかった。
「奈々子さんは一緒じゃなかったんですか?」
「もう寝た」
「まだ9時ですよ?」
「もう、寝た」
頑固親父の見え見えの嘘。
意地を張って拗ねた表情。
ケンカしたときの彼女とそっくりだった。