短志緒

昨年の春だったか、彼女の親父が俺たちの住む町にやって来た。

当然俺も挨拶をする。

親父はいつものように無愛想に対応した。

「お父さん、お時間があれば僕の店に来ませんか。奈々子さんと一緒で構いませんし」

俺が誘ってみると、親父はやっぱり微笑むこともせず

「時間があったらな」

と気のない返事をした。

その夜、親父は一人で俺が二番目に出した店に来た。

彼女は来なかった。

「奈々子さんは一緒じゃなかったんですか?」

「もう寝た」

「まだ9時ですよ?」

「もう、寝た」

頑固親父の見え見えの嘘。

意地を張って拗ねた表情。

ケンカしたときの彼女とそっくりだった。

< 6 / 161 >

この作品をシェア

pagetop