サクリファイス スクール /【多数決の学園】
「いってらっしゃい鮎兎!
頑張ってくるのよ?」
……頑張るったって、どうやって……。
聞いた瞬間そう思ったが、気を取り直して俺は答える。
「うん。
がんばってくるよ、義母(かあ)さん」
そう言って、もう見慣れた、30代の綺麗な女性に手を振った。
…俺の名前は七瀬鮎兎。
たぶんどこにでもいる、普通な中学生。
まあ、たまに同性から告白されるような、変な体質だけど…。
現在は家を後にして、目的地に向かう途中。
閑静で小綺麗な住宅街を数分ほど歩いていると、いつもの交差点で、いつもの聞き飽きた声がかかった。
「よう鮎兎! おっはよ!
今日は大事な日だからさあ、俺様が一緒についてってやるからな!」
「…はぁ…」
その無駄に明るく、逆に体力を吸収されるような声に、俺はため息をつく。
「なんだなんだ?
なんで朝からため息ついてんだ?
こんっなに天気のいい、青空眩しい快晴だっていうのに」
……お前のせいだよ春樹(はるき)……。
俺はもう一つため息を吐きながら、心の中でつぶやいた。
……この、俺を待ち伏せしていた、長身黒髪短髪のイケメン不良は、俺の同級生の春樹。
フルネームだと、[ 酒井 春樹(さかい はるき)] 。
なぜだか知らないけど、俺に執拗に絡んでくる、ウザイ奴。
「ん?
なんだ鮎兎?
なんでそんなウザそうな目で、俺を見てんだ?」
…普段鈍感な癖に、こういう時だけはわかるらしい…。
女子にもてるんだから、そっちと話したり仲良くしたりすればいいのに…。