恋の戦國物語
そこに現れたのは長い黒髪を綺麗に結ってある、言葉をも失う美人な女性。
可愛いとかじゃなくて、綺麗という言葉がふさわしいだろう。
…っと待って。
喜多って…もしかして、片倉喜多…さん?
きょとんとしながら見とれていると、政宗が意味深に頷いてきた。
「愛、喜多を知っていたのだな」
喜多…さん自身も小十郎自身も目を丸くしている。
はっとして政宗に目をうつす。
「もしかしてあたし、思ってること口にしてた?」
政宗はくっくっと笑いながら襖を閉める喜多を見る。
「『もしかして、片倉喜多さんか』と言っていたではないか」
急に恥ずかしくなって、意味もなく喜多さんに一礼をする。
「あなたが、噂の愛殿ですね?貴女の仰せの通り、私は喜多です。」
気の強そうな目を細めて、ふっと微笑みながら一礼してきた。
『噂』って…。
心で苦笑しながらも、ふと頭に過った。
確か、喜多さんは小十郎のお姉さんで、政宗の乳母でもあったとか。
あ…そっか…。
政宗は幼い頃に病気で目が失明してしまって、小十郎が取ってあげたんだっけ。
本当のお母さんは、政宗をおいて…いなくなった。
本で1度読んだことのある政宗の過去に、ぎゅうっと胸を締め付けられた様に、痛くなる。