恋の戦國物語

「誰か、着せてくれる人はいない?」

「皆、夕餉中だ」

冷静に即答された。
どうしよう…。

「やっぱり、セーラー服に着替え直してもいい?」

「政宗様が着てくるようにご命令を受けてきたのに、着ないで連れてどうする」

女中さん以外で着付けをやってくれる人…。

小十郎か、政宗?

おろおろしながら、どうにか帯を上手く巻けないか後ろに手を伸ばすが上手くいかない。

愛は、不器用だということを自覚しているほど、不器用なのである。

小十郎にまた怒られそうで、何とか一人でやろうとしていると、襖越しにため息が聞こえた。

すると、小十郎には恥という言葉がないのか、と思うほど彼は何とも言えぬ言葉を発しました。

「…帯だけ締めてやってもよい」

「…はい?」

今、何か幻聴が聞こえたような…。

「だから締めてやるといっている!何度も言わせるな」

…や、幻聴じゃなかった。
この人、本気で言ってるの…?

でも、どうしよう。
やりづらい感じがあるし、でもこのままだと政宗をがっかりさせるに違いない。

って、ちょっと待てーっ!
別にあたしは政宗の事好きじゃないし、そんなこと考えなくてもいいじゃん!

小十郎を待たせているにも関わらず、一人で百面相をしていた。


「嫌ならよい。早く締めろ」

痺れを切らしたのか、小十郎の冷たい言葉が返ってきた。

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