恋の戦國物語

そしてあたしが慌てて咄嗟に叫んだのが、これ。

「良くない!締めてください!」

最終的にこうなるのね…。

「できぬなら始めからそう言え」と言って、入るぞ、と声をかけてきた。

言葉使いに不似合いな、どこまでも礼儀正しい小十郎。

やっぱ、昔の人って礼儀正しいんだ。

帯をすぐに締められるように前をきっちり交差させ、整えた。

「ど、どうぞ」

すると、小十郎は静かに襖を開けながら「失礼する」と呟いた。

あたしは小十郎から背を向けているから、何も見えないけど。

また、すぅっと閉める音が聞こえると、こちらに歩いてくる音がした。

「で、何故後ろを向いている」

「あ、いや、何となく」

小十郎は自分自身の袖を捲し立てると、ふぅ、と息をついた。

「こちらを向け。でないとやれぬ」

自分はきっと今、顔が真っ赤だ。

躊躇いがちゆっくり小十郎の方を向くと、小十郎が無表情のまま目を見開いた。

「…締める故…早よう袖をあげよ」

小十郎はほんのり頬を赤くしながら、目線をあたしのお腹当たりに向けた。

言われるがまま、袖をあげて、やりやすいようにする。

すると、小十郎はあたしに触れるくらいまで体を寄せ付け、しゃがみこむと、脇の下に手を通してきた。

ちょぉおっ!
近い!
近すぎる!

触れそうなのに、あたしに一切触れていないというところがまた凄い。

さらさらヘアが真下にありながら、あたしの胸はバクバクで、ついつい袖で顔を隠した。

小十郎は袖を調節するためであろう、あたしのお腹当たりに黙々と着物を折り込み、はしょっていく。


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