恋の戦國物語
「身長低い」
小十郎が、そうぼそっと呟いたのをあたしは聞き逃さなかった。
「……」
一気に顔の温度が上昇してくる。
「この野郎、悪かったわね」
と、言い返したくても、口が動かないため黙っている。
おはしょりを作ってくれた小十郎はあたしに「ここ、持っていてくれ」と指示を出した。
無言のまま、小十郎は残りの細い帯を手に取ると、「手をよけろ」と言って、しゅるしゅる音をたてながら巻いていく。
あたしはと言うと、また顔を隠しながら黙って終わるのを待っていた。
――…
そして暫くすると、まだゆるゆるしているのにも関わらず、小十郎の気配が近くからふと消えた。
「終わったぞ」
「へ?」
袖で隠したまま、顔だけ下を向けた。
そこには、綺麗に巻いてある帯に結び目。
「あの…」
「…まだ何かあるのか」
小十郎はあたしと目も合わせようとせず、声のトーンを低くして応えてきた。
何か…怒ってない?
「ちょっと…ゆるゆるなんだけど」
そういえば、帯は2本しか使ってなかった。
普通、細いの2本と太いの1本使うんじゃないっけ?
「いや、それが普通だが。ゆるすぎたか?」
小十郎は、もっときつく締めるか?と問いかけてきた。
「あ、いや、何で帯を3本使わないのかなと思って」
この人、本数間違えた?
いや、それはないか。
小十郎に限ってボケてる訳ないし。
でも、本気で間違えてたら正直笑える。
一人で笑いを堪えていると、小十郎はあたしを凝視してきた。