恋の戦國物語

すると、女中さんは照れたように胸の前で手を横に降った。

「そんな、名乗るほどもないので」

何か…同じ人間なのにそんなこと言われるの慣れてないし好きじゃない。

「いえ、教えてください」

キッパリと告げると、女中さんは驚いた顔をしたが次第に照れたように応えてくれた。

「ま…松(マツ)にございまする」

松さんかぁ!
ここでは“お松”さんって言うのかな?

「お松さんですね!また機会があればよろしくお願いします」

自然とふにゃっとした笑顔になって頭を少し下げた。

お松さんもそんなあたしににこにこしながら、いってらっしゃいませ、と深々と頭を下げた。

スッ…

小十郎と共に廊下へ出ると、お松さんが閉めてくれたのか、襖が閉まった。

小十郎のあとをちょこちょこと歩いていると、喋りかけてきた。

「そなた…変わっているな」

「はい?」

いや、変わってるとか言われても、理由がわからなきゃ何もわかんないでしょ。

「いや…そなたが女中などに意地でも名前を聞いていた故」

「そんなにおかしい?」

「うぬ」

小十郎は背を向けて歩いたままこくりと頷いた。

やっぱり、よく分かんないや、ここ。

慣れない着物に袖を通したからか、足の歩幅は小さくてこけそうになるし、ちょっと緩すぎておはしょりが崩れないか心配になる。


喋りながらどうこうしていると、先ほどに見た派手な襖が目に入る。

「…俺は入らぬ。そなただけ入れ」

「はい」



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