恋の戦國物語
小十郎が端に退くと、あたしは襖越しに座って声をかけた。
…高校の面接の和室バージョンみたい。
「政宗…」
小さな声になったが、はっきりと政宗の名前を呼ぶ。
「あぁ、待っていたぞ、愛。入れ」
政宗は普通にあたしだと分かり、返事をしたと同時に部屋の中でコトッと音がした。
顔ごと目線を小十郎に向けると、小十郎はこくりと頷いたから、黙って襖を開ける。
「失礼します」
作法なんて何も分からないあたしは、座ったままとりあえず会釈をした。
政宗は、奥の書斎で何かを書いていたのか、一枚の紙を折りたたみながらこちらを見た。
「なに、入らないか」
「あ、じゃあ…」
どうすればいいのかあたふたしたが、そそくさと入り襖を閉めようとした。
さっき小十郎がいた場所にも目を向けるが、そこにはもう誰もいなかった。
「…」
…襖を出来るだけ静かに閉めると、政宗に向き直る。
何とも言えない微妙な空気のなか、あたしは口を開く勇気もなく沈黙が続く。
政宗がやっとこちらに近づき、あたしの前に座ると、ほう、と声をあげた。
「綺麗だ」
…率直すぎる…。
「…ありがと」
あたしはさらりと言った政宗に、顔を赤くしながら答える。
政宗がなにも言わず黙ってあたしの顔を覗き込みながらふっと微笑んだ。
政宗の綺麗な瞳が、あたしの目を捉える。
「――」
あたしの肩に手を伸ばしてきた政宗の、うるうるとした瞳に吸い込まれるように引き付けられる。
次第に、政宗の腕が背中に回ってきた。
…何、この感じ…。