恋の戦國物語
「何で、政宗様が避けているのか…知りたいのだろう」
「…うん」
小十郎は、何か知っているの―――?
思わず目をギュッと瞑る。
「……」
それからと言うものの、小十郎は一向に喋ろうとしない。
「…?」
恐る恐る小十郎を見上げると、さっきとは違い、とても難しい顔をしていた。
やっぱり、話しにくいんだ…。
政宗、あたしに愛想をつかしたのかな?
それとも…あたしがどこかで気に障るようなことをして政宗を傷つけちゃったか…。
沈黙の中で思うことは、どれもネガティブで不安なことばかり。
「…俺からは言えぬ」
小十郎がやっと閉じていた口を開いたかと思うとそう呟いたのを聞いて、小さく落胆した。
結局…あたしが聞くんだ…。
少し口を尖らせながら、袖を掴む。
鯉は、いいなー…。
喋られないから喧嘩することもないし、綺麗な色をしているから人間に好まれ飼われ、食べられることもない。
しかも何か名前までロマンチックだし。
…ただ。
食べられずに海や川を泳ぎ、大きな世界へといけるほど自由に移動できない。
鯉は泳ぎ、食べて死ぬだけの人生なのにいろいろなところを泳ぎ回れるほど自由ではないのだと思ったのだ。
そんなことを思いながら、今を一生懸命生きている鯉を、ただただ目を細めて見ていた。
……
不意に、あたしと小十郎は後ろに振り向く。
静寂に包まれているあたし達の耳に、微かに聞こえた足音。
小十郎は小さく「来た」と呟いた。