恋の戦國物語
小十郎のその言葉を聞いて、まさか、と思いながら足音のするほうを凝視する。
だんだんと足音が大きくなっていき、足音の主はようやく姿を現した。
「…っ…」
黒い眼帯をつけている男が、あたし達に気付かないまま廊下を歩いている。
手には、…紙?
じっとその人を見つめていたが、はっとしてまた池の方に向き直る。
「……」
気まずくなるし、あたしがずっと政宗を見ていて気持ち悪いって思われるのも嫌だし。
“あたしだって、怒ってるんだからね”と、どこかで政宗に対しての苛立ちと嫉妬心がうまれる。
それと同時に、政宗から謝ってもらえるんじゃないか、喋ってもらえるんじゃないかって、期待しているあたしもいる。
こんなの、不貞腐れてるだけじゃん。
小十郎は、政宗が近寄ってきているにも関わらず池を見ながらムスッとしている愛を、腕を組みながら見ていた。
すると、政宗があたし達に気付いたようで、急に足音が止まった。
もう政宗と一年以上会っていなかったかのような、不思議な感覚に襲われる。
「…小十郎」
政宗の低い声があたしの身体全体に響いた。
「…は」
小十郎も、微動だにせず返事をする。
あたしはどうすることもできず、鯉を目で追いながら2人の会話を黙って聞いていた。
すると、ジャリッ…と、政宗が庭に出てきた音がした。
「…ここに来るなど、珍しいな」
さっきとは違い、政宗のいつもと変わらない優しい声がする。
さっき小十郎が言ってた、「政宗はよくここにくる」っていうのはこの事だったのか…。