恋の戦國物語

俺が一つ瞬きをしたときだった。


愛の態勢が崩れていくと同時に小さな叫び声が聞こえたと思うと、咄嗟に喉から声が飛び出した。


「愛!」

俺が名前を叫んだ瞬間、小十郎がしゅっと愛の方へ走り、愛を池から救うように反対側へと突き飛ばし、小十郎はその反動で池に飛び込んだ。


――一瞬の出来事だった。


ッバッシャーンッ!!!


鋭い音は耳をつんざいて、水飛沫が政宗の頬を儚げに濡らした。


愛が飛ばされて軽く宙に浮いたところを、思わず俺が受け止める。

――俺…何して――…

思考回路が正常に回り始める前に、愛は俺の腕から飛び出して小十郎の元へ駆け寄っていった。


「…チッ」

…はあぁ。

情けねぇ、俺。


「…っ、小十郎っ!!!」

愛は必死になって小十郎の名を呼ぶ。


…池から何事もなかったかの様に上がってきた小十郎は、何故か立派な殿に見えた気がした…。



怒りそうな雰囲気の漂っていた小十郎は一切怒ることなく、今にも泣きそうな愛の頭を優しく撫でていた。


…何なんだろう。

このズキズキとする胸の痛みは。


一人取り残されたように佇む俺の方が余程恥じている。


小十郎が微笑むと愛もにっこりと微笑んでいて、その二方の姿は兄妹の様だった。

…いや、下手したら夫婦に見えただろうか――


ひゅうっと冷たい風が背後から吹いてきた。

ぼとぼとに濡れた小十郎は、愛から離れて俺の元へくると、深々と頭を下げて「着替えてきます」と言って城へ入っていった。


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