恋の戦國物語
◇ 愛side ◇
あたし、何も知らなかった。
眼帯の奥に潜んでいる過去の痛みが、あたしのこの両目のせいで、また蘇らせてしまっていること。
じゃあ、どうしたらいい?
あたしは、もう政宗の側にはいられないということ――?
政宗がまだ落ち着いていないときに襖越しから小十郎の声がしたが、今は入ってこないようにあたしが必死で止めた。
「愛」
落ち着いた政宗の目許を拭いながら、目線を外して「うん?」と返事をする。
「愛は…俺の味方か」
「当たり前じゃない」
いきなり何を言うんだ、と吃驚する。
「愛を、信じていいか」
「あたしは、もう政宗を信じてる」
政宗は鋭い。
本音を言わないと、一発で見抜かれてしまう。
だからこそ、遠回しで答えた。
「………っ」
やはり政宗は気付いただろうか。
あたしが、ずっとここには“いられない”ことを。
あたしも帰る場所がある。
信じている、というのは、あたしからすれば“ずっとここに居てくれることを信じている”という風にしか解釈できなかった。
…でも、政宗がいなければ死んでいたことは事実。
政宗には恩返しをしたいっていう気持ちが今は、あたしの中で優先されている。
政宗を嫌な気持ちにさせたのかもしれない、と、俯いている政宗に手を伸ばす。
「…まさむ…っん!?」
…ちゅ
手を伸ばしたのより早く、政宗は微かに笑うとあたしの頬に手を添えて、触れるだけの口付けをしてきた。
「ちょっ…何すん――…」
「俺は…愛が帰るその日まで信じている」
反抗しようとすれば、子供のように微笑んだ顔に、何かを決心したような男らしい言葉を投げ付けてきた。
も…、そのダブル攻撃、反則っ…。
ファーストキスがよりによって、戦国武将にとられるなんて…この世であたしくらいじゃないだろうか――…。
「愛…、ありがとな」
キスの意味はあったのかいまいち分からないが、そのときに一瞬ニヤッとしたのは見間違いではなかった。