恋の戦國物語

――…


「あのー…」

「うん?どうした、姫さん」

「な、名前…お伺いして…いいですか」


とりあえず、話は聞いてあげようと、彼と少し間隔をとって正座したあたし。


…というものの、彼は片膝を立てながらあたしをまじまじと見ているだけ。


だから文頭の様に、あたしから話しかけたのだ。


地味にあたしたちの時代の標準語使っているし、どこか怪しくて仕方がなかった。


「俺の名知らないかぁ」


ふざけたようにケラケラ笑う彼。

いや、知るわけないわよ。


「うーん、ここの殿さんに言われても困るしなぁ、下の名だけ教えよっかぁ」


「えぇっ!?」

にやーっと笑いながら、一瞬であたしに近づいた彼は、あたしの口許に人差し指を立てる。

ちっ…近っ…っ!


小十郎や政宗が近くに寄ってくるのと、また違う感じ。


「んー、じゃあ俺の事、黙っててくれる?」

今度はすっと、睨むかのような真面目な顔に変わり、黙るように同意を求めてくれる。


…もし言っちゃったりしたら…この人、忍者だから間違いなく殺されちゃうよね…。


「…はい…言いません」


――…怖い。

この人の威圧感が半端ないよ…。


次の瞬間、さっきの真面目顔が嘘のようにして、ふんわりと笑いながら頭をわしゃわしゃ撫でてきた。

「いい子いい子、怖がんないでよ、俺ってそんな怖い奴じゃないんだし」


いや…そのあっという間に変わる表情が怖いんだってぇ……。


苦手だなぁ…なんていう思いは、心の奥の奥底にしまっておいた。


また読まれたりしたらたまったもんじゃない。


「じゃあ、ちょっとだけ教えてあげる。俺の名は、佐助」

へらっと笑う、佐助と名乗る人。


――…え…、佐助って…

「もしかして…」


「ん?俺の事ご存知?」

「…あたしの知ってる中では…一人しか知りませんが…」


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