恋の戦國物語

すると、佐助と名乗った人は興味深そうに目を細めた。

「じゃあ、俺の名を言い当ててみてよ」

あたしから離れると、頭の後ろで手を組みながらあたしを遊ぶかのようにそう言った。


「多分だけど…」

「んん」


反応を確かめたく、佐助と名乗る彼をじとーっと見つめる。

また、彼もあたしの目を見ながら口角をあげている。



「真田十勇士の…」

「……」


言った途端「佐助」はピクリと反応するが、あたしは構わず続ける。


「……猿飛、佐助……っん゛んっ!?」


そう呟いた瞬間、後ろからバッと口を塞がれた。


…!いつの間にっ…!?


「俺、伊達に忍やってないしね」


後ろを振り向けなくて佐助の表情は分からないけど、ドスのきいた低い声はあたしの背中をゾクゾクさせた。



「ーっ!…っはぁ…っ」

背後から体は固定されているが、口からは手を離してもらえた。


「手荒な事してごめんねぇ」

クスクスと聞こえたと思えば、元の明るい声で謝ってきた。


…何なんだ、本当に…。


「姫さん、あんた俺の事知ってんだね」

耳元で話しかけられビクッと肩が跳ねる。

「…な…何がしたいんですか…」

誰か来て、と祈りながら佐助におそるおそる聞いてみる。

「んー、この前ここの近くで“さんぽ”してたらさぁ、あんたがこの室内から森を眺めているのを見て、気になっちゃった」


……あたしがここから森を眺めてた…?


あまり心当たりがなくて、ううん、と唸る。


人違いではないのか、と聞こうとする前に、佐助さんが口を開いた。


「星降る満月の頃」


“星”、“満月”……夜か。


あたしが夜にここから眺めた日――…




…って、昨晩しかないじゃんっ!
《60ページ参照》


「お…覚えています」


相手の殺気に少々たじろぎながら答える。


ただ…佐助さんに対して、一つだけ疑問がある。


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