好き。叶わないけど。
「さとゆりちゃん、大分上手くなったね。」
先生は私のことを“さとゆりちゃん”と呼んでいた。
“佐藤 百合香”で“さとゆりちゃん”
なんか子ども扱いされてる…。
まあ子どもだけど…。
でも先生の呼ぶ“さとゆりちゃん”は、聞く度に胸の奥がむずむずした。
「いやいや〜。まだクランクが苦手ですねぇ。」
「たしかに。クランクは下手くそだな。」
「わあ〜ひど〜。」
先生は、はははと笑って、
私の頭をぽんっと叩いた。
……だめだ…。
ただ軽く頭を叩かれた
だけなのに…。
先生の手が私の頭に触れた。
それだけなのに、体中がとても熱くなった。
「ありがとうございました。」
教習が終わって、
先生にお礼を言い、車から降りる。
「は〜い。気をつけてね。」
そう言って先生も車から降りる。
私は車から降りてからも、
教官室に向かう先生の
後ろ姿を目で追う。
――あの背中を、後ろから抱きしめられたらどんなに良いだろう。