タイトルなしの物語
「先輩…ごめんな…さい…」
息も絶え絶えに言う後輩は本当に辛そうで、いつもより大きく見える紫苑の背中を目で追った。
「お願い、紫苑。早く戻って…」
私はポカリを後輩の首に当てながらそう願った。
「大森さん、ありがとう!佐伯(サエキ)くん、大丈夫?さ、行こう」
保健の先生が走って来て、おんぶをし始めた。
「あ…これ…」
私はポカリを差し出した。
「ありがとう。自分の水分はある?」
大丈夫。私の水筒はまだまだいっぱいだ。
「大丈夫です」
私がそう言うとほぼ同時に先生は走り出した。
「お疲れ…応援終わったな…」
先生と入れ代わりに紫苑が戻って来た。
「本当だね…でも、別にいいや。紫苑もお疲れ様」
私は正直応援はどうでも良くなった。
もし2人で佐伯くんの様子に気づかなかったら、大変なことになったと思う。
応援よりも、もっと大切なことを経験できたから…。