タイトルなしの物語


「先輩…ごめんな…さい…」


息も絶え絶えに言う後輩は本当に辛そうで、いつもより大きく見える紫苑の背中を目で追った。


「お願い、紫苑。早く戻って…」


私はポカリを後輩の首に当てながらそう願った。


「大森さん、ありがとう!佐伯(サエキ)くん、大丈夫?さ、行こう」


保健の先生が走って来て、おんぶをし始めた。


「あ…これ…」


私はポカリを差し出した。


「ありがとう。自分の水分はある?」


大丈夫。私の水筒はまだまだいっぱいだ。


「大丈夫です」


私がそう言うとほぼ同時に先生は走り出した。


「お疲れ…応援終わったな…」


先生と入れ代わりに紫苑が戻って来た。


「本当だね…でも、別にいいや。紫苑もお疲れ様」


私は正直応援はどうでも良くなった。


もし2人で佐伯くんの様子に気づかなかったら、大変なことになったと思う。


応援よりも、もっと大切なことを経験できたから…。


< 37 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop