タイトルなしの物語
「いった!」
のどが渇いたからロビーの自動販売機に行こうとしたら、角から出てきた光野とぶつかった。
「日野…悪い」
光野はそう言って去っていったから、俺もそのまま足を進めた。
すると、小さくでも確かに変な呼吸が聞こえた。
俺はその音に聞き覚えがあった。
辺りを見回すと、ソファーにもたれかかって大きく肩を動かしている朱莉を見つけた。
顔は白く、唇は紫。
手にはいつもポケットに入れているであろう紙袋が握られているけど、口に持っていけてない。
「…朱莉っ」
俺はすぐに駆け寄って自分のポケットから紙袋を取り出し、それで朱莉の鼻と口を覆った。
先生を呼んでもきっと役に立たないと思って、俺は朱莉をおんぶした。
片手で紙袋を押さえ、片手で朱莉を支えた。