タイトルなしの物語
「おじゃましまーす」
「ただいまー」
私と太陽が家に帰ると、美春が嬉しそうに駆けて来た。
「お帰りなさい!陽くん!」
美春は小さい頃から太陽のことを陽くんと呼ぶ。
昔、「たい」がなかなか発音できなくて、いつも「…よー」になってたから。
「美春…私は?」
美春は太陽が大好き。
「朱莉よりも俺だって」
太陽め…さらっと言いやがった。
「お帰りなさい」
キッチンからお母さんが出てきた。
「お母さん!矢野(ヤノ)先生ったらひどいんだよ?私が数学…」
「朱莉が苦手なのがひどい」
いやいや太陽くん。
あなたは運動も勉強も何でもできると評判の良い方ですよ?
「じゃあ教えてよ!私に分かるように!」
私が言うと、何故か空気が静かになった。