tea
気を取り直してドアを開けると、ママが穏やかな笑顔で言った。それは“お母さん”の顔だった。


「電話するなら、ここでしたら…?」


あたしはなにも言わずに部屋に入る。子機だけ見てるからママの表情は見えない。

部屋にはテレビの雑音と、電話のプッシュ音だけが響いてた。



プルルルルルル、プルルルルルルー…



『もしもし、…桜?』


優しい優しい葵ちゃんの声。きっと葵ちゃんはあたしがいつもと違うって分かってる…。
思わず目頭が熱くなった。やばいっ泣きそう…
けど、とっさに明るい声をだした。


「葵ちゃぁぁん…今日は、本当に本当にごめんねっ…本当にごめんなさい…」


ほんとはもっともっといっぱい謝りたかったのに、葵ちゃんがそれを制した。


『大丈夫だよ、桜。私も達也のとこに行けたしね』


それから葵ちゃんは何もなかったかのように、話し始めた。
達也くんは大丈夫そうだってこと。
明日は雨が降るってこと。
義弟の大地くんが可愛いってこと。


『私が大地って呼ぶと反応してくれるの』


あまりにも葵ちゃんが嬉しそうだったから、あたしは葵ちゃんの状況に少しも気付かなかったんだ…。
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