猫が好き!
立っていると遙か上に見上げるシンヤの顔が、今は目の前にある。
この人懐こい笑顔に騙されたのだ。
けれど、この笑顔が好きだった。
多分もう見納めだから、しっかり見ておこう。
真純はシンヤをじっと見つめ返す。
見つめるシンヤの顔が、次第に近付いて来た。
身体を倒し、真純が座るソファの背もたれに両手をつく。
真純はその両腕の間に閉じ込められた。
息がかかるほどの距離に、迫ったシンヤが囁く。
「分かってくれるまで、何度でも言う。好きだよ、真純さん」
シンヤは更に、距離を詰めてくる。
顔をしっかり見ておきたいのに、あまりに近すぎて焦点が合わず、真純は目を閉じた。
シンヤの唇が、真純の唇に重なる。
こうなる事は分かっていて、目を閉じた。
拒む気もなかった。
シンヤに触れるのはこれが最後だから、忘れられない思い出が欲しかった。
シンヤの優しく慈しむようなキスに、涙が溢れそうになる。
少しして、シンヤの唇が離れた。
真純は目を開き、けれど目を合わせないように俯いて、シンヤを両手で突き放した。
「出て行って」