猫が好き!
シンヤに出て行くように言い渡して家を出た後、行く当てもなく近所を歩いていると、後ろからやって来た車が、目の前の路肩に止まった。
そして、中から下りてきた男が、真純に声をかけた。
スーツにネクタイのどこにでもいる会社員風の男は、シンヤより大分背が低く細身で、とがった鼻と狡猾そうな細い目が、爬虫類を思わせる。
男は真純に、一緒に住んでいるのは”シンヤ”だろうと問いかけた。
最初は辺奈商事の社員かと思った。
だが、すぐに違うと分かった。
男はいきなり真純の腕を掴み、刃の出たカッターナイフを突きつけてきたからだ。
今思えば、サバイバルナイフとかではなく、カッターナイフというところが、いかにも会社員っぽい。
この男はおそらく、シンヤが言っていた辺奈商事のライバル会社の社員だろう。
真純に強引な直接交渉をするという話だったが、端から交渉する意思はないように思われる。
真純はカッターナイフの刃を見つめて息を飲んだ。
ヘタに切れ味を知っているので、リアルな痛みの記憶が、身をすくませる。
言いなりになるしかなかった。