猫が好き!


 呆れたような声を発して男がしゃがみ込み、椅子を引き起こそうとした。
 ちょうどその時、入口の扉が、派手な音を立てて開いた。

 男と同時にそちらへ視線を向けると、入口に息を切らしたシンヤが立っていた。

 男は椅子から手を離し、立ち上がる。
 そこへシンヤが、いきなり男に掴みかかって、真純から引き離した。

 どうせなら椅子を起こしてから、立ち上がって欲しかったと思いつつ、真純は椅子ごと横に転がる。
 視線の先でシンヤが、男のスーツの襟を両手で掴んで怒鳴った。


「彼女に何をした?!」


 これほど激昂したシンヤは初めて見た。
 男の方もその迫力に気圧されて、オタオタと言い訳をする。


「落ち付けって、まだ何もしてねーよ」


”まだ”って、何かするつもりだったのだろうか。

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