猫が好き!
ポケットからキーホルダーを取り出し、鍵を外して真純に渡す。
そして足元の荷物を持って、シンヤは軽く告げた。
「じゃあ、行くから。元気でね」
「うん。シンヤも元気で」
あまりにもあっさりと、まるでフラリと散歩にでも出かけるような調子で、シンヤは笑いながら軽く手を振って、家を出ていった。
玄関の扉が閉まりシンヤの気配が消えても、真純はしばらくの間その場に立ち尽くした。
手の中にある鍵に残る温もりに、シンヤの存在感と喪失感を改めて突きつけられ、真純は力が抜けたように廊下にペタリと座り込んだ。
堰(せき)を切ったように、止めどなく涙が溢れてくる。
後悔しないようにと思っていたのに、どうして引き止めなかったのだろうと、すでに後悔していた。
瑞希を裏切りたくないから、シンヤと別れた。
けれど今後シンヤを思い出すたびに、何も悪くない瑞希を恨んでしまうかもしれない。
それが元で瑞希とギクシャクしてしまったら、どちらかをはっきりと選ばなかった事で、どちらも失ってしまうのだろう。
真純は廊下に座り込んだまま、子供のように声を上げて泣き続けた。