猫が好き!


 努めて平静を装いつつ問いかける。
 シンヤは目を細めて囁いた。


「残り物の風味だけでも、おすそ分けしようと思って」


 黒シンヤだ。
 気付いた時には、唇を塞がれていた。

 シンヤのキスはいつも断りがなく、唐突で強引だ。
 そのくせ酷く優しくて、とろけるように甘い。

 ビールを飲むのに断らなくていいから、こっちは断りを入れて欲しいと思う。
 けれど実際断りを入れられたら、照れくさくて逃げ出してしまうだろう。

 計算高い黒シンヤは、それを知っているから唐突なのかもしれない。

 もう何度目だか分からなくなったキスだけど、やっぱりドキドキして照れくさい。
 なのにこの瞬間だけは、目を閉じていてもシンヤが側にいる事は認識できる。
 だからなのか、あの寂しさと不安が忘れられる。

 そんなシンヤのキスは、結構好きだ。
 これも絶対、シンヤには内緒だった。




(完)

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