猫が好き!
シンヤは両手を下ろし、安心したように大きく息を吐いた。
「鍋叩いて起こすって、マンガとかでは見た事あるけど、本当にやる人初めて見た」
「呼んでも起きない、おまえのせいだよ」
ムッとして言い返すと、シンヤは唇に人差し指を当て、上目遣いに見つめて言う。
「キスで起こしてくれたら、一発で起きるよ」
「ふざけるな。新婚夫婦じゃあるまいし」
「ちぇーっ。いいじゃん。キスくらい」
ふてくされたようなシンヤの声を背に、真純は部屋を出た。
階段を下りながら、最後の言葉が引っかかる。
「キスくらい」
シンヤにとってキスは、その程度の重みなのだ。
自分の頭が固すぎるのかもしれないが、ドキドキした事が虚しく思えてきた。