猫が好き!
「それって何かマズイの?」
プログラミングについて、真純はよく分からない。
素朴な疑問を口にすると、「まずくはないけど、イヤなものよ」と前置きして、瑞希は簡単に説明してくれた。
プログラム言語にもよるが、人間の書いたプログラムソースは、そのままではコンピュータに理解できない。
そのためコンパイラというツールを使って、機械語に翻訳する。
翻訳作業中に翻訳できなかった部分を、コンパイラはエラーメッセージとして人間に知らせてくれる。
だが、コンパイラが教えてくれるエラーは、命令語のスペルが違っていたり、定義が漏れていたり、命令語の使い方が間違っていたりという、構文の間違いだけだ。
実際に動かしてみなければ分からないロジックのバグや、ましてやプログラムの動作には何の関係もない、プログラムソースを読みやすくするためのコメント(注釈)の部分についてはエラーを返したりしない。
作りかけのプログラムソースには、その辺の不具合は満載と言ってもいい。
それをいちいち指摘されるのは、ありがたい反面、不愉快でもあるという。
おまけにハルコにコンパイルの仕事はやらせていないらしい。
「頭のよすぎるコンピュータってのも考えもんだね」
「別に実害があるわけじゃないから放置してたんだけど、ちょっと苦情がうっとうしいくらいに増えてきたから、何を捜してるんだか、調べてみようと思うのよ」
ため息と共に、瑞希は席を立った。
いつものように書類を交換し、明日シンヤを引き合わせることを約束して、真純は辺奈商事を後にした。