君に告げよう

そのあと雨が降ってきて、洗濯物を取り込もうとベランダに出た柚羽さん。

姉さんは灰皿を持って、後に続き……。



「悔しくて……。灰皿をベランダから落としたの。そうしたら柚羽さんが……」



灰皿を守るようにして、柚羽さんは、姉さんの目の前でベランダから身を投げた。


たかが、灰皿なのに。

でも柚羽さんにとっては、永輝くんが使い続けた、大切な思い出の品。

永輝くんが指輪に柚羽さんを重ねたように、柚羽さんもまた灰皿をそばに置くことで永輝くんを感じていたに違いない。



「その後にね、永ちゃんに会いに行って、ドライブに行ったの」

「……姉さんがハンドルを切ったっていうのは、本当なのか?」

「――本当よ。永ちゃんの部屋で結婚指輪も見つけた。あれは柚羽さんとの指輪よ。頭にきて、勝手に自分の指に通してみたら……きつかったのよ」



僕を真っ直ぐに見て、姉さんは涙をこぼしながら小さく笑った。



「自分を見失っていた。無我夢中で。どうして、あたしじゃないんだろう。どうして、あたしを見てくれないんだろうって」

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